会社案内のようなもの[野宿野郎の社史のようなもの]
〈会社のようなもの、誕生の軌跡〉
野宿野郎の社史のようなもの
『野宿野郎』は野宿のミニコミ誌です。
「野宿野郎」には、一応「編集部のようなもの」があることになっていますが、実はとくにない。だったらなんでもいいので、いまここで、一応「編集部のようなもの」改め、一応「会社のようなもの」になろうと思う。
ということで、「当社」のミニコミ誌は「人生をより低迷させる旅コミ誌」と謳い、少数の奇特な読者さまの人生を低迷させようと、日夜努力を重ねている。のですが、なにより先に会社が低迷してしまい、ここ1年以上、新しい号が出せていません。ならば会社は一体全体、なにをしているのか。「野宿」です。あとは「だらだら」しています。
「野宿やだらだらをすると、ミニコミが作れない」
「ミニコミを作っていると、野宿やだらだらができない」
「野宿野郎の社史」の大半は、このジレンマとの戦いであると云えるでしょう。
それから「ミニコミを作るとお金がなくなる」「野宿やだらだらをしていても、お金がないままだ」。これはどっちを取っても同じ結果なので、戦いすらできません。ああ、無情。
などと書き連ねていると、よりいっそう当社は低迷、混迷してしまいそうなので、もうやめます。そしてこんなんじゃ「社史」ではないのではないか。
心機一転。
『野宿野郎』創刊のきっかけは、03年ごろ、日曜研究家で『ミニコミ魂』(晶文社)編者の串間努さんとお会いしたことに依る。串間さんが「『コミケ(コミックマーケット)』が面白いよ」と仰るので、「ではその面白いコミケというものに出展したいものだ」「出展するために野宿のミニコミ誌を作ろう」と本末転倒、会社は思った。まずは申し込み用紙に書くため、ミニコミのタイトルを決めねばならぬ。そこで『野宿の雑誌』『野宿人』『旅と野宿』などを考えるも(『本の雑誌』『旅行人』『酒とつまみ』が好きだったからです)、次々と却下。好きなものを安直にパクってはいかんよ。
結局あまり思い入れのないタイトル、『すてきな野宿さん』にして申し込んだら、見事落選。とてもやる気がなくなって、半年くらいなにもせず、でもなんか暇だったので、「あ、『野宿野郎』にしよう」と思って、04年に『野宿野郎 ためしに1号』を創刊した。刷り部数150部。定価300円。書店さんへ委託で置いていただくと「売れば売るほど赤字になる」ということにあとで気づく。でも売らねば。と思っているとわりと売れ、嬉しくなって『調子にのって2号』を瞬く間(3か月後)に出す(調子にのってたから)。それからまあまあやる気で、『3号』と『4号』も、ぼちぼちの間隔で出す。
といったミニコミ発行とは別に、当社の一番の業績は、「のじゅくの日」を思い付いたことです。これは「6/19」と「9/19」の「6」と「9」を180度回転させれば「のじゅく」と読め、野宿の祭日だ! というもの。05年6月にふと気が付き、今日まで毎回『「のじゅくの日」野宿』を決行している。
以後、当社は様々な「〇〇野宿」事業への多角経営化を図る。例えば06年には、金八先生の聖地・荒川土手で学ランを着て「金八野宿」を決行。その時の写真が、07年発行『やっとできたよ5号』の表紙となる。
とかなんとかやっているうちに、創刊3年目。ただのんべんだらりと過ごしているだけで時は経ち、3周年を迎えられるだなんてスバラシイ。当社は喜び、宴会野宿中の酔った勢いで、3周年記念事業として「野宿戦隊! シュラフマン」を撮ることに。「六本木ヒルズのようなもの」を敵とし、ゲリラ撮影をしたため、警備員さんにつまみ出される。8ミリフィルム代が嵩み、経営は傾いた。ああ、恐るべし、六本木ヒルズ!
08年には、「東京で野宿が流行っているらしい」と大いなる誤解をしたドイツの国営放送に取材依頼され、この機に海外進出を目論んだ当社は、「営業野宿」を決行。しかし「富士山に登るのと東京で野宿をするのは何が違いますか」という難解な質問に「起きてるのと、寝てるの?」と答えたのが敗因か、お蔵入りになる。
悲しみをばねに作った『これでいいのか6号』は、念願の「トイレ野宿」を特集(のようなもの)。『僕の見た「大日本帝国」』(情報センター出版局)の著者で「トイレ野宿のパイオニア」の西牟田靖さんにインタビューをさせていただくも、テープ起こしをさぼった会社は、西牟田さんのページを白紙のまま印刷。ピンチ。が、なんと『本の雑誌』の連載(当時)「ぐーたら雑誌中毒」で柴口育子さんが白紙について褒めて(たぶん)くださったお陰で、西牟田さんは笑って許してくれる。あー、よかった。結局、テープを起こして白紙を埋め、こっそり号を変えた『これでいいのだ7号』を出したのは、1年半後だった。とてもひどい。
創刊7年目の今年、5周年を祝って発行するはずだった『別冊! 野宿野郎②』がまだ完成していない。そしてさっき、野宿とだらだらをする「会社のようなもの」誕生! ばんざい!
(『本の雑誌』さんより転載)